親の銀行口座が凍結されてもお金を引き出せる「仮払い制度」がある

制度・法律

亡くなった人の銀行口座は、凍結されてお金を引き出すことができなくなります。とはいえ、葬儀費用の支払いなどのため、まとまったお金が必要になることもあるでしょう。こうした場合に利用できる「相続預金の払戻し制度」があります。

親が亡くなると銀行口座は凍結される

親が亡くなると、親名義の銀行口座からお金を引き出せなくなります。

銀行に連絡すると口座が凍結される

人が亡くなると、不正出金などを防ぐため、その人名義の銀行口座からの入出金や振り込みが一切できなくなります。これを口座凍結といいます。

ただし、亡くなったからといって勝手に口座凍結されたりはしません。役所に死亡届を出しても、その情報が役所から銀行に連絡されることはありません。口座が凍結するのは、家族などが銀行へ連絡した時です。

勝手にお金を引き出すことはできない

口座が凍結されると、遺産分割協議(預貯金などの財産を誰がいくら相続するか決める話し合い)が終わるまでは、たとえ家族であっても原則としてお金を引き出すことができなくなります。

亡くなった人の医療費や介護費、葬儀費用の支払いのためという理由であっても、銀行は預金の引き出しに応じてくれません。お金を引き出すためには、口座凍結を解除する手続きが必要になります。

凍結解除の手続きは相続人全員の同意が必要

いったん口座が凍結されてしまうと、遺産分割協議が終わるまでは、その口座の銀行取引は一切できなくなくなります。

口座凍結を解除してお金を使うためには、原則として相続人全員の同意のもと手続きを行わなければなりません。

凍結された口座からお金を引き出せる制度がある

口座凍結後、どうしても現金が必要な場合に、遺産分割協議が終わっていなくてもお金を一部引き出せる制度があります。それが「相続預金の払戻し制度」です。

相続預金の払戻し制度とは

「相続預金の払戻し制度」とは、その名のとおり、亡くなった人の預貯金の一部について払い戻し(仮払い)をしてもらえるという制度です。法律(民法)の改正により、2019年7月から利用できるようになりました。

この制度を利用すれば、遺産分割協議が終わっていなくても一定の金額までお金を引き出すことができるので、葬儀などの費用にあてることも可能です。

払い戻しを受けるためには、相続関係を証明する戸籍謄本や印鑑証明書などを提出する必要がありますが、相続人全員の同意はいりません。払い戻されたお金の使途は問われず、相続人であれば単独(ひとり)の意思で払い戻しの請求ができます。

「相続預金の払戻し」には2つの制度がある

相続預金の払戻し制度には、家庭裁判所への申し立て(審判)が必要な場合とそうでない場合の2つの方法があります。

相続預金の払戻し制度
  • 家庭裁判所の審判による払戻し(家庭裁判所が認めた金額=金額の上限はなし)
  • 家庭裁判所の審判が不要な払戻し(ひとつの金融機関につき上限150万円)

金額の上限はないものの、裁判所への申し立てには大変な手間がかかるので、家庭裁判所の審判を必要としない方法を使うことがほとんどでしょう。必要書類を揃えれば、手続きは比較的簡単です。ただし、必要な書類は金融機関によって異なる場合があるので、事前に確認してください。

相続預金の払戻し制度で出金できる金額

家庭裁判所の審判が不要な方法の場合、相続人ひとりにつき、銀行ごとに最高150万円まで払い戻しを受けられます。

払い戻しを受けられる金額の上限は、次の金額のいずれか「低いほう」です。

  • 死亡時の預貯金残高 × 法定相続分 × 3分の1
  • 150万円
法定相続分とは

法律で定められた、財産を分ける割合のこと。誰が相続人になるか、その組み合わせによって割合が変わります。例えば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者は2分の1、2人の子どもたちは4分の1ずつとなります。

この金額は、各金融機関ごとに適用されるので、複数の銀行に口座がある場合は、払戻しできる金額が増えます。仮に3つの別々の銀行に口座を持っていた場合は、最高で450万円まで払い戻しを受けられることになります。

なお、同じ銀行の複数の支店に口座を持っていた場合は、すべての支店を合わせて150万円が払戻しの上限となります。

具体例

前提:
相続人は奥さんと子ども2人
ひとつの銀行に1500万円の預金がある

払戻しできる金額

奥さん:150万円
= 1,500万円 × 2分の1 × 3分の1 = 250万円 → 150万円よりも高いので、払戻しできる金額は150万円となる

子ども:それぞれ125万円ずつ
= 1,500万円 × 4分の1 × 3分の1 = 125万円 → 150万円より低いので、払戻しできる金額は125万円となる

払戻し制度を利用する際の注意点

使い勝手の良さそうな制度ですが、注意点もあります。

相続放棄ができなくなる

払戻し制度を利用すると「相続放棄」ができなくなる可能性があるので、相続放棄を検討している場合は注意が必要です。

もし亡くなった人に借金などのマイナスの財産があって、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は相続放棄(相続する権利を放棄)するという選択肢があります。

しかし(相続預金の払戻し制度を利用したか否かにかかわらず、)亡くなった人の預貯金をおろして使ってしまった場合、「相続することを承認した」とみなされてしまうので、相続放棄はできなくなります。

そのため、相続する財産の総額を確認するまでは、安易に制度を利用しないほうがいいでしょう。

ただし、葬儀費用として利用するのであれば「相続することを承認した」とはみなされません。

遺言があると利用できないこともある

遺言書がある場合は、この制度を利用できないケースがあります。たとえば、父親が亡くなり、相続人が奥さんと子ども場合で、遺言書に「預金のすべてを奥さんに相続させる」と書かれていると、子どもは払戻しはできません。

他の相続人とトラブルになることも

仮に葬儀代に使ったとしても、領収証を残しておかないと、他の相続人から「本当に葬儀代に使ったのか」などと疑われて相続争いになってしまうおそれがあります。払戻し制度を利用するときは、事前に他の相続人にその旨を伝えて、必ず領収証を保管しておきましょう。

ななのひとこと・ふたこと

便利な制度と言えますが、安易に利用すると後でトラブルになる可能性もあります。利用するならリスクをきちんと把握してからが良さそうです。