アメリカで認知症薬レカネマブが正式承認|日本で承認されたらどうなる?

制度・法律

2023年7月6日、日本の製薬大手エーザイとアメリカの製薬企業バイオジェンが共同開発したアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が、アメリカで正式承認されました。

「レカネマブ」とはいったいどんな薬なのか、アメリカでの正式承認によって今後日本ではどうなっていくのかや課題などをまとめました。

レカネマブ承認のニュースが話題に

2023年7月、レカネマブがアメリカで正式承認されたことが話題となりました。

これまでの流れ

日本とアメリカの製薬会社が共同開発したアルツハイマー病の治療薬レカネマブは、今年1月にアメリカ食品医薬品局(FDA)による迅速承認を受けて、米国内での販売が始まっていました。世界で初めて使用が許可されたことになります。

迅速承認とは

少しでも早く実用化するために、深刻な病気の治療薬について、効果が予測できればその使用を認める制度。仮免許に相当する。

そして今年7月、レカネマブは、認知症の進行を遅らせる効果があるとして正式承認されました。

今後の見込み

正式承認を受け、アメリカ国内では高齢者向け公的医療保険の適用になったため、今後本格的に普及するとみられます。

日本でも今年1月に承認申請されており、秋までに審査結果が出る見通しです。承認されれば、日本でも公的保険診療で使用できると見込まれます。

このほか、欧州連合(EU)やカナダ、英国、中国、韓国でも承認申請されています。

レカネマブってどんな薬?

レカネマブとは一体どんな薬なのでしょうか。

レカネマブの概要

アルツハイマー病は、脳の神経細胞に有害な「アミロイドβ(ベータ)」というタンパク質の蓄積が原因と考えられています。

レカネマブは、このアミロイドベータを除去する薬で、症状の進行を平均2~3年遅らせる効果があると言われています。

これまでのアルツハイマー治療薬は認知機能の一時的な改善効果しかありませんでした。

一方レカネマブは、アルツハイマー型認知症の原因とみられるアミロイドベータを脳内から除去し、病気の進行を抑える効果を謳う初めての薬剤です。そのため、今後の治療の在り方を大きく変える可能性があると期待されています。

レカネマブの治療の対象となる人

アルツハイマー病が原因とされる軽度認知症の人と、その前段階である軽度認知障害(MCI)の人が治療対象とされています。症状が進行した人には使えません。

また、画像診断などで有害タンパク質の蓄積が確認できたことが条件となります。
2週間に1度、点滴で投与して治療を行います。

レカネマブの課題

レカネマブは、新薬として期待される一方で、課題もあります。

高価である

販売元のエーザイは、アメリカでの標準的な販売価格を年間2万6500ドル(約377万円:1ドル=142円で換算)としています。

日本での価格は、医薬品として承認された後、厚生労働大臣の諮問機関が保険適用の可否を判断した上で決まります。アメリカでの価格や製造原価などがベースになる見込みで、日本でも数百万円程度になるのではないかと予測されています。

保険適用されれば、患者の負担は大幅に減りますが、国の医療保険財政に大きな負担となることが懸念されます。

副作用のリスク

これまでの治験で、出血やむくみが起きやすくなるなどの副作用のリスクが高まることが指摘されています。

承認されたアメリカでは、投与開始から約半年の間に3回、脳のMRIを撮影し、副作用に注意することを治療指針に盛り込んでいます。

薬の効果の限界

レカネマブで症状の悪化を抑えられても、病気の進行を完全に止めることはできず、損傷を受けた脳の機能を回復させることもできません。

大切なのは「認知症になっても大丈夫」と思える社会

レカネマブの承認は、認知症の人とその家族にとって、大きな転換点を迎えることは間違いないでしょう。ただし、薬物療法だけでは限界もあります。

「認知症の人と家族の会 新潟県支部」代表の金子裕美子さんは、こう話しています。

新しい薬が、私たちが願う、これ以上絶対に認知症の症状が進まないような薬になるのであれば、こんなにうれしいことはありません。ただ、現実はまだまだ道遠しの感があります。医学の進歩というのはすごく大事だと思いますが、私たちの生活は毎日毎日が勝負です。いつできるかわからない薬を待ち続けているだけではなく、いま私たちが認知症になっても安心して暮らせるためにはどうしたらいいか、自分の大事な人が認知症になったときどうしてあげたらいいかをもっともっと考えていくことが一番大事なことかなと思っています。

NHKホームページより引用

『認知症になっても安心して暮らせる社会』の実現に向け、認知症の人と家族を支える社会のあり方が何より大切と言えるでしょう。

ななのひとこと・ふたこと

認知症の新薬であるレカネマブ。認知症の人やそのご家族にとって期待できる治療になるでしょう。とはいえ、承認されたとしても、日本国内で広く用いられるようになるには、さまざまな課題があります。

認知症基本法の理念にある「国民が、共生社会の実現を推進するために必要な認知症に関する正しい知識及び認知症の人に関する正しい理解を深める」意識や行動が大事なんだと思います。