同居している親と世帯分離すると、介護費用を軽減できるなどのメリットがあります。ただし、デメリットもあります。
今回は、世帯分離のメリットとデメリットや注意点、手続きについて紹介します。
世帯分離はどんなケースでできる?
そもそも世帯分離とは何でしょうか?また、どんな場合に世帯分離できるのでしょうか?
世帯分離とは
世帯分離とは、同じ住所に一緒に住んでいて住民票上ひとつになっている世帯を、別々の世帯に分けることをいいます。親世帯と子世帯など、ひとつの住宅の中に複数の世帯主が存在することになります。
世帯分離は住民票の登録を変更することになるため、役所の窓口で手続きが必要になります。
親と同居している場合でも世帯分離はできます。同居しているからといって、必ずしも同じ世帯に入らなればいけないわけではありません。
世帯分離は「同じ家に住んでいても、それぞれの生計が別になっているかどうか」を基準として判断します。「親と別居しているか」「配偶者がいるか」といったことは全く関係がないのです。親と子がそれぞれの世帯で独立した家計を営んでいればいいので、同居している子が独身の場合も世帯分離できます。
同じ家で親と子がお互いに共同で家事をしていたり、食卓を共にしたりしている程度であれば、その点を問題視されることもありません。世帯分離の条件は「生計が別であること」とされていますが、収入の有無には基準が設けられていないため、同居している子が無職でも世帯分離はできます。
夫婦の世帯分離は難しい
親子間の世帯分離はおおむね認められますが、夫婦間の世帯分離が認められるケースはかなり限定されます。
例えば、夫婦のどちらかが介護施設に入所している場合や、DV・虐待を受けている場合は、状況により世帯分離できる可能性があります。ただし、通常よりも煩雑な書類申請などが必要になるので、手続きにはかなりの手間がかかります。
なお、自治体によっては夫婦の世帯分離は認めないところもあります。
世帯分離のメリット
親子で世帯を分けてそれぞれの世帯収入が減ることにより、介護費用や国民健康保険料などの負担を軽減できる可能性があります。
介護保険料や介護保険サービスが安くなる可能性がある
介護保険料や介護保険サービスの費用は、「本人または世帯の収入(所得)」に応じて負担額が決まります。
例えば、親の収入が少なくても、収入の多い子どもと世帯を同じにしている場合、世帯の所得額は多くなります。そのため、介護保険料や介護サービスの自己負担額は高くなってしまうのです。
世帯分離すれば親の収入だけで介護費用が決まるため、介護保険料や介護保険サービスの費用負担を抑えられる可能性があるというわけです。
介護施設の住居費用や入院時の食費の自己負担を減らせる
親が特別養護老人ホームや介護老人保健施設などに入所している場合、世帯分離することで費用を軽減できる可能性があります。
介護施設や療養型の病院では、世帯の年収や預貯金額に応じて居住費や食費などの自己負担額が変わります。そのため、世帯分離により世帯主の収入が少なくなれば、その分、支払う額を減らせることがあるのです。
国民健康保険料が下がる可能性が高い
国民健康保険料も介護保険料と同じように、収入(所得)によって計算されます。そのため、子どもと同じ世帯にするよりも、世帯分離して親だけの収入とすると、国民健康保険料を減額できる可能性があります。
ただし、場合によっては逆に保険料が高くなってしまうケースがあるので注意しましょう。保険料が高くなるケースについては、デメリットのところで紹介します。
後期高齢者医療保険料が下がる
後期高齢者医療保険は、75歳以上の人が加入することになっています。保険料は世帯全体の年収に応じて計算されます。そのため、現役世代である子と高齢の親が同一世帯でいるよりも、世帯分離をすることで後期高齢者医療保険料の支払額を下げることができます。
低所得者向け給付金をもらえる可能性がある
住民税非課税世帯に該当すると、低所得者向けの補助金等を受け取れる場合があります。
収入(所得)の低い人は住民税を払わなくてよいことになっています(これを「免除」といいます)。住民税非課税世帯とは、世帯の全員が、住民税が免除される世帯のことです。
世帯分離によって親のみの収入になると住民税非課税世帯に該当するケースもあるでしょう。所得状況に応じて給付金をもらえることは大きなメリットと言えます。ただし、給付金が支給されるかは社会情勢などによるため、その点は理解しておきましょう。
世帯分離のデメリット
さまざまなメリットのある世帯分離ですが、一方でデメリットも存在します。
国民健康保険料が高くなる可能性もある
メリットとして「国民健康保険料が下がる可能性が高い」と紹介しましたが、逆に増えてしまうケースもあるので注意が必要です。
国民健康保険料は世帯主が支払わなければならないことになっています。そのため、世帯分離をするとそれぞれの世帯が保険料を負担することになります。各世帯主がそれぞれ国民健康保険料を支払うことになるので、世帯分離をする前よりも保険料が高くなってしまう可能性もあるのです。
ただし、保険料の負担額は自治体によっても計算方法が異なるので、結果的に、世帯分離前と比較して大差がないもしくは増えない可能性もありえます。具体的な負担額がいくらになるかは、自治体の相談窓口などに確認してみましょう。
介護保険サービスの費用を世帯合算できなくなる
世帯を分けることで介護保険サービスにかかる費用の負担が増える可能性があります。
介護保険サービスの利用料は、世帯の所得に応じて自己負担額の上限が設定されています。介護サービス費は同じ世帯であれば合算することができ、自己負担上限額を上回った分については、後日お金が戻ってきます。これを「高額介護サービス費」といいます。
例えば、同一世帯に2人以上の要介護の方がいた場合、介護保険サービス費を合算して自己負担額を超過した分は払い戻しされます。
しかし、世帯分離をすると合算できないので上限額に届きにくくなります。結果として払い戻しを受けられなくなる可能性が高くなってしまうのです。
要介護者が複数人いる世帯は、世帯分離をすると損をしてしまうことがあるので注意しましょう。
親が扶養家族から外れてしまう
世帯分離をすると、会社員などの子どもの扶養に入っていた場合、親は扶養から抜けることになります。会社から扶養手当や家族手当をもらっている場合は、親が扶養から外れることで、こうした手当を受け取れなくなってしまうので要注意です。
また、扶養から外れると、会社の健康保険の対象からも外れることになってしまいます。親が子供の扶養家族であれば、親は健康保険料を負担する必要はありません。しかし、扶養から外れると親は自分で国民健康保険に加入し保険料を支払わなければなりません。
世帯分離せずに扶養家族のままとしておいたほうが経済的な負担が少ないケースも多いので要注意です。
役所の手続きが煩雑になる
世帯分離をすると、役所などでの手続きに手間がかかります。
例えば、親の代わりに住民票を取得するなどの行政手続きを別世帯の人が行う場合、たとえ家族であっても委任状が必要になります。
委任状は原則として本人が書かなければいけません。身体状態によっては親本人が委任状を上手に書けないケースもあり得るでしょう。必要な都度、親に委任状を書いてもらわなければならないので、手続きや書類の取得の手間は確実に増えるといえます。
世帯分離の留意点
世帯分離をしても、実際には同居の家族と生計を同一にしている場合、不正受給と見なされる可能性があります。
本来の理由は伝えなくていい
世帯分離の申請手続きの際、もし理由を聞かれても本来の理由を伝える必要はありません。世帯分離は本来、介護費用を抑えるための制度ではないからです。「介護費用を節約したいから」などと言うと、申請が通らなくなってしまうこともあるので注意してください。
「生計を別々にすることになったから」「親子で家計を分けて管理したいため」などと答えておけばよいでしょう。深く追求されることはないので安心してください。
生活保護を目的とした世帯分離は難しい
同様に、生活保護の受給を目的に世帯分離を申請しても、申請が認められないことがあります。
生活保護の受給申請にあたっては、本人の収入や預貯金額、不動産などはもちろんのこと、家族の収入や資産状況なども考慮されます。親の年金収入や子どもの収入が基準を下回っていなければ申請は通りません。生活保護を受けて介護費用を軽減したいと考えるのは難しいといえるでしょう。
分離した世帯をもとに戻すこともできる
一度世帯分離をした後でも、「世帯合併」の手続きをすれば、もとの同一世帯に戻すことができます。
ただし、世帯合併の手続きの際に、住んでいるところが違っていたり、家計が明らかに別であったりする場合などは認められないケースがあります。
世帯分離の手続き
世帯分離の手続きは、住民登録をしている市区町村の役所に「世帯変更届」を提出して行います。
届け出ができる人
世帯分離の届け出ができるのは、本人、世帯主、同一世帯の代理人です。代理人が申請する場合は親族であっても委任状が必要です。
手続きに必要な持ち物
- 世帯変更届(必要事項を記入します)
- 本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・パスポート・健康保険証など)
- 国民健康保険証(国民健康保険に加入している場合のみ)
- 後期高齢者医療被保険者証(後期高齢者医療保険に加入している場合のみ)
- 委任状(代理人が手続きする場合)
- 印鑑(念のため持参しましょう)
ななのひとこと・ふたこと
世帯分離には、メリットだけでなくデメリットもあるので、申請する前に我が家の場合はどうなのか、しっかりと状況確認をすることが大事です。
また、保険制度の仕組みは複雑なうえに、定期的に改訂されるので、最新情報をチェックするようにしましょう。