仕事と介護を両立する人を支えるために、国が法律で定めている制度として「介護休暇」と「介護休業」があります。似たような名称ですが、介護休業と介護休暇はまったく別のものです。
今回は、介護休暇と介護休業のそれぞれの概要やその違いなどについてお伝えします。
「介護休暇」と「介護休業」は名前が似ているけれど別のもの
「介護休暇」と「介護休業」は、どちらも家族を介護するために労働者が休みを取得できる制度です。労働者の権利として法律(育児・介護休業法)で定められています。
ここでいう労働者とは、会社などに雇われて給料をもらっている人のことです。フリーランスや自営業者の人は対象外なので注意してください。
違いは大きく分けて4つ
「介護休暇」と「介護休業」は、どちらも介護と仕事を両立するために法律で定められた権利ですが、制度が異なるので注意しましょう。
介護休暇と介護休業の違いは、大きく分けて次の4つです。
- 休みを取得できる日数
- 制度を利用できる対象者
- 給付金の有無
- 申請方法
「介護休暇」と「介護休業」についてそれぞれ説明します。その後、違いを確認していきましょう。
【介護休暇】短期のお休みを取得できる
介護休暇とは、要介護状態にある家族の介護のために、1日または時間単位で短期間の休みを取得できる制度です。
介護休暇で取得できる日数は年間5日まで
介護休暇では、対象となる家族1人につき年間5日まで、2人以上の場合は年間10日までお休みを取ることができます。1日単位だけでなく、時間単位でも取得できます。
ケアマネジャーとの打ち合わせなど短時間の用事があるときに、時間単位でお休みを取れるので休暇を無駄にすることがありません。
身の回りの介護以外でもお休みを取れる
休暇の取得理由になる「介護」というのは、どういった内容が対象になるのですか?
食事の介助など身の回りの介護だけでなく、例えば、介護保険の手続きや通院の付き添い、ケアマネジャーとの面談なども対象となります。
要介護者(介護される人)の急なケガや体調不良など、突発的に休みが必要になったときにも利用できます。
介護休暇を所得できる対象者
要介護状態の家族を介護している労働者であれば、介護休暇を取ることができます。性別は問いません。
正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員なども対象です。ただし、日雇いで働いている人は介護休暇を取得できません。
なお、以下の人は、対象にならない場合があります(労使協定で介護休暇の対象外とすることが認められているため)。
介護休暇の対象となる家族
- 配偶者(事実婚を含む)
- 父母(養父母を含む)
- 子(養子を含む)
- 配偶者の父母
- 祖父母
- 孫
- 兄弟姉妹
叔父や叔母、いとこ等は対象外です。
介護休暇中の賃金について
介護休暇中の賃金に関して法的な定めはありません。有給か無給かは会社によって異なりますが、支払われないケースが多いようです。
会社の規定に従うことになりますので、勤務先の就業規則を確認しましょう。
介護休暇の申請方法
介護休暇は、法律上は書面での申請は義務付けられていません。「取得したい当日に口頭での申請も可能」とされています。
ただし、実際には、休暇申請書の提出を必須としている会社が多いです。会社の規則に従って申請しましょう。
【介護休業】長期のお休みを取得できる
介護休業とは、要介護状態にある家族を介護する必要がある場合に、長期のお休みを取得できる制度です。
介護休暇は1日や時間単位での短期利用ですが、介護休業は数週間や数ヶ月に渡る利用を想定しています。
介護休業で取得可能な休暇日数は93日
介護が必要な対象家族1人につき、通算93日までお休みを取得できます。このお休みは3回まで分割して取ることも可能です。
なお、93日には、介護休業をしている期間の土日祝日も含めてカウントされますので、注意しましょう。
体制を整えるための準備期間として利用する
自分が介護を行うだけでなく、仕事と介護の両立ができる体制を整えるための準備にあてることも含まれます。例えば、介護サービスの手配や施設入所に向けた手続き、親族間での分担を話し合うなど、ある程度の時間をかける必要があるときに利用できます。
介護休業できる対象者
介護休業を取得できるのは、介護休暇と同じく要介護状態ご家族を介護している労働者です。
介護が必要な家族との続柄は、介護休暇の対象となる家族と同じです。また、介護休暇と同様に、対象家族が要介護認定を受けていなくても休業できます。
なお、雇用形態は関係ないため、正社員だけでなくパート・アルバイト・派遣社員・契約社員なども対象となります。
ただし、以下の人は介護休業を取得できないケースがあります。
契約社員や派遣社員など雇用期間に定めのある人は要件をしっかりと確認しておきましょう。
介護休業中の賃金について
介護休業は、介護休暇と同様に賃金の支払いについて法的な定めはありません。休業中の賃金の支払いについては会社によって取り扱いが異なりますが、支払われないことが多いです。
しかし、介護休業の場合は、条件を満たせば雇用保険の「介護休業給付」の制度を利用して給付金を受けることができます。
介護休業給付金については、後ほど詳しく説明します。
介護休業の申請方法
介護休暇と異なり、介護休業は前もって申請する必要があります。
介護休業は、事前申請が必須です。開始予定日と終了予定日を決めて、取得開始予定日の2週間前までに会社に申請書を提出しなければなりません。
申請書の書式は会社によって異なるので、申請方法などはあらかじめ確認しておきましょう。
介護休暇と介護休業の違い
介護休暇と介護休業は、どちらも介護と仕事を両立するための支援制度ですが、その内容は異なります。
大きく異なるのは、取得できる日数と申請方法、そして給付金の有無です。
それぞれの違いについて表にまとめました。
介護休暇と介護休業のどちらを選べば良い?
違いは分かりましたが、介護が必要になったとき、介護休暇と介護休業のどちらを選べばいいのでしょうか?
両方の制度を使い分けることが大切です。どちらを取得すればいいのか、具体例を交えて紹介しますので、検討する際の参考にしてください。
「介護休暇」は突発的・短時間の用事に利用する
介護休暇は、突発的な用事ができたときや短時間の休みが必要になったときに取得するのがおすすめです。
取得できる日数は最大5日と短いのですが、事前の申請が必要なく当日でも取得可能で、時間単位で取得できるのが大きなメリットです。
介護休暇は、会社による規定がない限り口頭で申請するだけで済むので、急に休みが必要になった際に取得しやすいと言えるでしょう。
ただし、介護休暇は無休の場合が多いので、有給休暇の利用も検討しましょう。有給休暇を使い切っている、または有給休暇は自分のために残しておきたい場合は、介護休暇を取得することをおすすめします。
「介護休業」は両立のための体制作りの期間として利用する
介護休業は最長93日のお休みを取得できるので、自分が介護をすることだけでなく、仕事と介護の両立をする体制を整えるための期間として利用すると良いでしょう。
介護環境が整うまでは決めることがたくさんあります。また、決めた後でも、それらが実際にうまくできるのかどうか、ある程度の期間、様子を見たうえで、必要に応じて再調整する必要があります。長期のお休みがあればこうしたことに対応できます。
介護休業なら給付金を受け取れる
介護休暇・介護休業ともに無給であることが一般的ですが、介護休業では、条件を満たせば介護休業給付金を受け取ることができます。
介護休暇だと、介護休業給付金の申請はできないので注意してください。
給付金をもらうには一定の条件がある
ただし、給付金を受け取るためには、一定の条件を満たしている必要があります。
給付金額は給料の約2/3がめやす
介護休業給付金の金額は、給料の67%となります。要介護状態の同一対象家族について、93日を限度に3回まで受け取れます。
ただし、介護休業期間中に有給休暇や手当などで給与をもらっている場合、その金額によっては支給額が減額されたり支給されなかったりすることがあります。
なお、介護休業給付金には所得税などの税金はかかりません。
介護休業給付金の申請方法
介護休業給付金は、原則として会社(事業主)がハローワークに申請します。
申請期間は、介護休業終了日の翌日から2ヶ月後の月末までです。
介護休暇と介護休業は労働者の「権利」
介護休暇と介護休業は、仕事と介護の両立を支援するために法律で定められた制度です。もし仮に勤務先の就業規則等に記載されていなくても、労働者は申請する権利があります。
また、会社側が、介護で休みを取ることを理由に従業員に対して減給や降格などの処分をすることは法律で禁止されています。
もしこうした不当な扱いを受けたときは、ひとりで悩まずに自治体や周囲の人に相談しましょう。
ななのひとこと・ふたこと
介護と仕事の両立を支援するため、介護休業や介護休暇制度の見直しが行われるようです。今後、こうした制度がさらに利用しやすくなって、やむなく介護離職する人の減少につながってほしいものです。