厚労省が行っている「終末期医療についての意識調査」
厚生労働省は終末期医療について、意識調査を行っています。一般国民、医師、看護師、介護職員等を対象として、平成4年からほぼ5年おきに実施している「人生の最終段階における医療に関する意識調査」です。
一般の人が望む終末期医療とは
この調査によると、「認知症が進行し、身の回りの手助けが必要で、かなり衰弱が進んできた場合」の一般国民の回答は以下の通り。
(調査の結果:結果の概要(PDF)のデータを参照しました。認知症のケースについての調査結果は49ページから55ページに記載されています。)
「人生の最終段階を過ごしたい場所」
介護施設 59.2%
医療機関 26.8%
居宅 11.8%
また、「中心静脈栄養や胃ろうなどの延命治療は望まない」と回答した人は、約7割です。
延命治療とは
そもそも延命治療とはどんな治療なのでしょうか?
実は、延命治療について日本にも国際的にも、明確な定義はありません。
人間の尊厳や倫理、それぞれの価値観に関わる問題であり、明確な基準を設けるのが難しいことの現れだと思います。
人工栄養の種類
(一般的には)延命治療と考えられている人工栄養には、大きく分けて2種類あります。
胃や腸を通して栄養成分を投与する経腸栄養法と、胃や腸を通さず(静脈内に)栄養成分を投与する非経腸栄養法の2種類です。
この2種類の人工栄養について、書籍「高齢者ケアと人工栄養を考える」を参考にまとめてみました。
経腸栄養法(経管栄養法ともいう)
管(チューブ)を使って、胃ないし腸に、直接、流動食や水分、薬を入れる方法
胃ろう栄養法
お腹に小さな穴を開け、そこに管を通して、胃に直接流動食などを投与する。
経口摂取(口から食べる)との併用が可能。同じ経腸栄養法の経鼻経管栄養法に比べ、本人の不快感や苦痛は少ないといわれている。
経鼻経管栄養法
細いチューブを鼻から胃まで通し、そのチューブから流動食などを投与する。
チューブは常時装着している状態。胃ろうと違い、経口摂取との併用は難しい。
間欠的口腔食道経管栄養法
食事のつど、口から食道にチューブを入れて流動食を注入する。
消化管の動きが活発になり、下痢や胃食道逆流の減少が期待できる。チューブを挿入するたびに、確実に食道に入っているか確認が必要。
非経腸栄養法
胃や腸を使わずに、静脈内に、直接、栄養成分を投与する方法
中心静脈栄養法
心臓近くの中心静脈に管を入れ、栄養液を投与する。
おもに手術後の一時的栄養補給として行われるものであり、回復する見込みのない終末期の患者に長く続けるものではないとされている。
末梢静脈栄養法(末梢点滴)
手足の末梢静脈に管を入れ、栄養液や水分を投与する。
末梢静脈は細いため、必要な水分は補給できるが、生命維持に必要な栄養は補給しきれない。新陳代謝機能が低下して、注入された水分を代謝しきれない場合、余剰分が体内に溜まってむくみの原因となり、身体に負担がかかる。
持続皮下注射
静脈ではなく皮下に針を刺し、そこに持続的に少しずつ水分を投与する。
おもに脱水症に対する水分補給が目的のため、投与するのは基本的には生理食塩水で、栄養分の補給はごくわずか。
延命治療の先にあるもの
人口栄養や人口呼吸などで、たくさんの管につながれ、ベッドに寝たきりになったまま、意識もはっきりしない状態で寝たきりになってしまう状態をスパゲティ症候群というそうです。
そして、そんな状態を見て、「本人が不憫で仕方ない。見ているほうもつらい。延命治療をやめて欲しい。」と家族が医師に頼んでも、いったん始めた延命治療は、通常は止められません。延命治療を止めるということは、医師にとって殺人罪に問われる可能性があるからです。
少しでも長く生きて欲しいと思っただけなのに、本人にとっても家族にとっても、むしろ苦痛になってしまう。そんな可能性も否定できません。
延命治療をしないという選択
「延命治療をしない」という選択肢もあります。
消化機能や新陳代謝機能が低下した終末期の高齢者にとって、身体が処理できない過剰な栄養や水分は、本人にとってはむしろ苦痛だそうです。
たとえ意識が朦朧としていても、延命治療によって多少の苦痛を伴うとしても、それでも少しでも長く生きていて欲しいと思うのは、もしかしたら、家族や周囲の人間のエゴなのかもしれません。
「高齢者ケアと人工栄養を考える」
「高齢者ケアと人工栄養を考える」は一部書き込み式になっていて、「本人・家族のための意思決定プロセスノート」という位置づけです。
延命治療(人工栄養)という難しい問題について、自分や家族の考え、価値観について、順を追って考えられるようになっています。
PART1では、人工栄養についての説明
PART2では、ステップ1からステップ5まで段階を踏んで考えられるワークシート
付録には、選択に迷った時のヒントなどが載っています。
全編を通して、語りかけるように書かれているので、読みやすいです。
また、人工栄養の専門用語についても易しい言葉で書かれていて、分かりやすくて良かったです。
ななのひとこと・ふたこと
誤嚥性肺炎で入院したときに延命治療について言及されて、かなりショックを受けました。しばらくはその現実を受け入れることができませんでした。
でもこの本が、延命治療(人工栄養)についてしっかり向き合って考える勇気をくれました。とは言いつつ、簡単には結論の出ない問題です・・・。