「娘を泥棒に育てた覚えはない」と怒鳴られる日々。母のもの盗られ妄想が始まった

母の介護

母は日常生活は普通に出来ていたのですが、ひとつ困ったことがありました。
ときどき、「お財布がない。」と言うようになったのです。

物盗られ妄想が始まった

一緒になって探すと、いつもと違う買い物バッグに入れていただけだったりして、すぐに見つかるのですが、だんだんとその頻度が増えていきました。
そしてそのうち「お財布がない。」「お財布に入れていたお金がなくなった。盗ったんでしょ?返してよ。」と、私が疑われるようになりました。
自分で変なところにしまい込んだのに、そのことをすっかり忘れてしまっているのです。

典型的な物盗られ妄想です。
始まった時期をはっきり覚えていないのですが、おそらく2010年の終わり頃からだったのではないかと思います。

「娘が財布を盗む!」なんで私が疑われるの?

まだ私は、認知症について、ましてやその症状のひとつといわれる物盗られ妄想についても知りませんでしたので、ただただ困惑するばかりでした。

はじめはたまにだったのが、週に1回、週に数回、ほぼ毎日、と頻度がエスカレートしていきました。
しかも、何がきっかけになるのか分からず、突然言い出すのです。
たった今まで普通に穏やかに会話していたのに、急に「お財布がない。」と言い出し、私を責めます。

この家には泥棒が住んでいる

床についたのに、深夜に急に起きだして財布を探し始めることもしばしばでした。
そんなに広い家ではありませんから、母が夜中に起きて電気をつけると嫌でもこちらも気づきます。
しばらく放っておいても一向に探すのをやめようとしません。
仕方ないので話しかけると、決まって泥棒扱いされ怒鳴られるようになりました。

「娘を泥棒に育てた覚えはない。泥棒と一緒になんて住みたくない。」と、毎日のように言われました。

家に帰りたくない

のちに、症状がさらにエスカレートしてからは、夜中に興奮して「これから交番に行って来る。」と言って出て行ったことも何度かありました。

私は、夜寝られないという身体的負担はもちろんのこと、実の母親から泥棒扱いされる精神的苦痛に悩んでいました。
いつ物盗られ妄想のスイッチが入るのかビクビクし、「今日は大丈夫だろうか。」と、家に帰ることがストレスになっていました。

母は当時、食事などはまだ自分ひとりでとれていましたし、大抵のことは自分で出来ていました。
ですからその頃はまだ、私は母の生活についてそれほど心配はしておらず、よく残業したり友人と飲んで帰ったりしていました。
帰りが遅くなったときは、熟睡していてくれるといいなと願ったものです。

極力顔を合わせたくないので早めに寝てくれるといいけど、あまり早く寝ると夜中に起きる可能性が高くなります。 結局どちらが良いとも言えないのですが、家に帰って母が寝ていると少しだけほっとする、そんな毎日でした。

もの盗られ妄想に怯え、疲弊する毎日

誰にも相談できず、私は、何をどうしたらいいのかを考える余裕も、何か行動を起こす気力も、すっかりなくなっていきました。
そんな日々が続き、身体的にも精神的にもかなり疲弊していたある日、ちょっとした出来事が起こりました。