私には10歳年上の従兄がいました。
「いました」と過去形なのは、病気で亡くなって今はいないからです。
従兄が亡くなって今年でちょうど10年。
つまり自分が、従兄の亡くなった年齢になったわけです。
そっか、もう10年になるのか、となんとなく感慨深い気持ちになったので、今日は従兄の話と介護の話を絡めて書くことにしました。
10歳離れた従兄のはなし
従兄弟(Mちゃん)は、穏やかな性格で人当たりも良く、私は実の兄のように慕っていました。
私には弟がいるのですが、年が近い(ひとつ違い)せいか、子どもの頃はしょっちゅう喧嘩をしていました。「Mちゃんみたいな優しいお兄ちゃんがいたらいいのにな」と当時よく思ったものです。
Mちゃんは一人っ子で、お父さん(私にとっての叔父)は、Mちゃんが学生のときに亡くなっていて、母ひとり子ひとりの家庭でした。
Mちゃんのお母さん(私の叔母)はハキハキした性格で話の面白い人で、私はそんな親子ふたりが好きでした。
ふたりも私のことをかわいがってくれて、私は大人になってからもちょくちょく、Mちゃん親子の家に泊まりにいったりしていました。
Mちゃんは、特別カッコいいわけではないのですが、人当たりが良い性格もあってか、わりとモテていたようです。でも(理由ははっきりわかりませんが)結婚はしていませんでした。
私が30歳を過ぎる頃には、Mちゃん親子の家に遊びに行く回数はさすがにめっきり減ってはいたものの、たまに電話で近況を話したりしていました。
毎日かかってくる謎の電話
ところがある日を境に、毎日のようにMちゃんから電話がかかってくるようになったのです。
話す内容はたわいのないことばかりで、私は戸惑いました。
「ななが小さい頃は、◯◯で△△だったなあ。覚えてる?」
「ななには弟がいて羨ましいよ。俺はひとりだからさ。」
「親や兄弟を大切にするんだよ。」
なんでこんなに頻繁に電話をかけてくるんだろう?
しかも毎回同じような話で面白くないし。
半年ほどそんなことが続いたでしょうか。いい加減面倒くさくなった私は、半分冗談で半分本気でこう言いました。
「従妹に毎日電話するとか、変でしょ。彼女に電話にしなよ〜。」
Mちゃんは「ははは。そうだよな。」と笑って言ったものの、それからもほぼ毎日電話をかけてきました。
特に用事もないのになぜ毎日のように電話をかけてきたのか、その理由がわかったのはMちゃんが亡くなった後のことでした。
謎の電話の理由
Mちゃんは自分自身の病気と闘いながら、母親の介護をしていたのです。
Mちゃんのお通夜で久しぶりに会った叔母は、認知症になっていたようでした。当時、私の母はまだ認知症ではなかったので、私は認知症についての知識はほとんどありませんでした。だから今振り返ってみての想像でしかないのですが、おそらくそうだったんだと思います。
Mちゃんは不安や苦しみにさいなまれていたんだ。でもそうした気持ちをうまく打ち明けることができないまま、私に電話をかけていたんだ。
そう気づいたら、後悔と反省とやりきれない気持ちでいっぱいになりました。
なんで気づいてあげられなかったんだろう。
なんでもっと真剣に話を聞かなかったんだろう。
なんか変だな、とずっと思っていたのに。
あんなに慕っていた従兄だったのに。
と同時に、こうも思いました。
なんではっきり伝えてくれなかったのかな。
そんな曖昧な表現じゃ分からないよ。
つらいときは「つらい」ってちゃんと言ってくれなきゃだめだよ。
男性は、介護に限らず悩みをひとりで抱え込みがちだと聞きます。でも男女差というより、その人自身の性格や考え方による違いじゃないかな、と思います。
私はもともと他人に悩みを打ち明けるのが苦手(だと思う)なので、こと介護に関してはそうならないように意識的に気をつけています。
介護はひとりで抱え込んじゃだめです。これは(自分の経験から)断言します。
ななのひとこと・ふたこと
ちゃんと伝えて欲しかった。ちゃんと話して欲しかった。
そう思いながらも、もし当時(10年前の私が)認知症のことを聞いて、それをきちんと受け止められたんだろうか。なんて考え込んでしまう自分も否定できません。
今こうして自分が介護をしているからこそわかる気持ちであって、そうでない自分だったら、どうだったんだろう?