家族の介護を理由に仕事を辞めることを介護離職といいます。毎年10万人もの人が介護離職をしており、その数はここ10年間横ばいとなっています。
10万人!そんなにいるのですね。
今回は、介護離職の現状とその理由についてお伝えします。
介護離職の現状
介護の状況は家庭によってさまざまですが、配偶者や子どもが介護をすることになるのが一般的です。
親の介護の場合、年代としては働き盛りである40代から50代が多くを占め、一般的には介護と仕事の両立を求められることが多い世代ともいえます。
介護をしながら仕事もしている人は 346 万人
総務省が2018年7月に公表した調査(*)によると、介護をしている人は日本におよそ628万人います。このうち、仕事を持っている人は 346 万人にのぼります。
働きながら介護もしている人は、介護をしている人全体の約55%もいるんですね。
これを男女別に見ると、働きながら介護もしている人は、男性は65.3%、女性は49.3%となります。
男性の方が多いのはちょっと意外です。
これには少しカラクリがあります。「介護をしている」といっても、介護に費やす日数が男女では大きく異なるんです。
男性は「月に3日以内」が約3割で最も高く、次いで「週に1日」、「週に6日以上」となっています。一方、女性は「週に6日以上」がが約3割で最も高く、次いで「月に3日以内」、「週に1日」となっています。
「月に3日以内」と「週に6日以上」では負担の大きさがまったく違いますね。
とはいえ、「月に3日以内」だとしても介護は身体的にも精神的にもストレスがかかります。仕事と両立するのは簡単ではありません。
介護を理由に仕事をやめる人はどれくらいいる?
では、介護を理由に仕事をやめる人はどれくらいいるのですか?
先ほどの調査結果によると、9万9千人が介護や看護を理由に離職しています。そのうち男性は2万4千人、女性は7万5千人で、女性が約8割を占めている現状が浮き彫りになりました。
過去の動向として、前々回(平成19年)の調査では、同じ理由で離職した人が約14万5千人、前回(平成24年)の調査では約10万1千人でした。平成19年からは減少しているものの、平成24年と比べるとほぼ横ばいであり改善はみられていません。
国や企業が「仕事と家庭の両立支援」のためにさまざまな対策を行っているにも関わらず、年間10万人ほどの人が介護を理由に仕事をやめているのです。
介護離職の理由は『仕事との両立が難しい』から
介護離職する理由の多くは「仕事と介護の両立が難しい」ことです。
なぜ両立が難しいのですか?
両立が難しい理由は、大きく分けてふたつあります。ひとつは「介護者(親)や自分自身などのこと」、もうひとつは「勤務先との関係」です。
「介護者(親)や自分自身などのこと」で辞めざるを得ない
具体的には、以下のような理由が挙げられます。
【個人的なことが理由】
- 自分のほかに介護をする人がいない
- 家族や親族の支援体制が不十分
- 仕事と介護の両立に体力的、精神的限界を感じる
- 介護がいつまで続くのか分からず両立の見通しが困難
- 介護制度等が分かりにくく使いづらい、利用方法がわからない
- 要介護度が重くなり介護の負担が増える
- 特別養護老人ホームなどの公的介護施設の順番待ちで介護施設が見つからない
- 希望する予算や場所、サービスの内容や質に納得のいく民間の介護施設が見つからない
- 自身が介護にもっと時間を割きたい
自分自身のこと以外に、勤務先との関係も大きく影響されます。
具体的には、以下のような理由が挙げられます。
【勤務先との関係が理由】
- 仕事と介護の両立について職場の理解が得られない
- 介護のために仕事を休むことや早退・遅刻することが増えて、職場に迷惑をかけると思う
- 職場に何度も家族や施設から電話がかかってきて、仕事が続けにくくなる
「介護を理由に減給されたり、昇進できなくなったりするかもしれない」と不安に思い、介護していることを会社に伝えられない人も少なくありません。
ある調査(*)によると、介護離職の離職理由として 「(仕事を続けたかったが、)勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった」ことが最も多く、全体の4割強を占めています。
「(仕事を続けたかったが、)介護保険サービスや障害福祉サービス等が利用できなかった、利用方法がわからなかった等があった」「(仕事を続けたかったが、)手助・介護が 必要な家族、その他家族・親族の希望等があった 」といった理由もありますが、勤務先の制度や環境が大きな要因になっているのです。
* 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(厚生労働省委託調査)の「令和3年度(2021年度)仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業:労働者調査」
介護離職した人の多くが「仕事を続けたかった」と思っています。勤務先との関係に悩み、仕事を辞めざるを得なかった切実な状況がうかがえます。
両立するための支援制度を利用しよう
介護しながら働く人を支える制度などはないのですか?
介護離職を防止するために、法律によって、さまざまな制度が規定されています。
介護と仕事を両立するための支援制度には、以下のようなものがあります。
介護休業
介護休業とは、家族を介護するために長期の休みを取得できる制度です。
同じ会社などに1年以上勤めている人は、介護が必要な対象家族1人につき、通算93日まで休みを取得できます。この休みは3回まで分割して取得可能です。
介護休暇
介護休暇は、家族の介護や介護保険の手続きを行うなどの際、休みを取得できる制度です。
対象家族が1人の場合は年に5日まで、2人以上の場合は年に10日まで取得できます。
介護休業、介護休暇ともに労働者の権利として法律(育児・介護休業法)で定められています。
そのため会社側は、申し出があった際に拒否する、あるいは、介護休業等を取得した従業員に対して解雇や降格、減給などの不当な扱いをすることは許されません。
また最近では、介護休業の期間延長や介護目的の有給休暇、介護休業中の給与支給など、法律以上の独自制度を整備する会社も増えてきています。
公的介護保険サービス
公的介護保険は社会保険の一種です。40歳以上の人が加入して介護保険料を納め、介護が必要になったときに所定の介護サービスを受けられます。
公的介護保険で受けられるサービスには、訪問介護、入浴介助、訪問看護、デイサービス、ショートステイ、特別養護老人ホームや老人保健施設などへの入居などがあります。
介護について相談できる窓口を複数持とう
介護離職をせずに「仕事と介護を両立」させるために、支援制度や公的介護サービスをフル活用しましょう。とはいえ、法律の支援制度や公的介護保険のしくみは難しいうえに改正も多いため、どんな制度が利用できるかを把握するのはなかなか難しい面もあります。
そこで、ケアマネージャーや地域包括支援センターなど、介護について相談できる窓口を複数持つことを強くお勧めします。
介護のことについて勤務先との関係に悩んだときも、こうした窓口に遠慮せずに相談してみましょう。制度を正しく理解し、公的介護保険サービスや職場の各種支援制度を最大限活用することで、仕事と介護を両立させていきましょう。
ななのひとこと・ふたこと
6月26日の日経新聞によると、介護離職を減らし仕事との両立を後押しするため、厚生労働省は介護休業や休暇制度について社員に知らせることを企業に義務付ける調整に入ったそうです。2024年の通常国会で育児・介護休業法の改正案提出を目指して議論が進んでいくことになりそうです。