最近、ペットボトルのふたが開けにくくなった経験はありませんか?もしかすると、それは加齢に伴う筋力の低下が原因かもしれません。筋肉量が減少し、全身の筋力低下が起こることをサルコペニアといいます。
全身の筋力が低下する「サルコペニア」
サルコペニアとはいったいどんなものなのでしょうか。
サルコペニアとは
サルコペニアは病気の名前ではありません。
体を動かす筋肉の量が減少し、筋力と身体機能が低下した状態をサルコペニアといいます。加齢以外にも、寝たきりの生活や疾患、低栄養が原因で起きる場合もあります。
ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarx/sarco)=筋肉」と喪失を意味する「ペニア(penia)=喪失」を合わせた造語で、「加齢性筋肉減少症」とも訳されます。
1989年にアメリカの学術雑誌ではじめて提唱された比較的新しい概念です。
サルコペニアは、加齢のみが原因の一次性サルコペニアと、活動、疾患、栄養が原因で起こる二次性サルコペニアに分類されます。多いのは一次性サルコペニアですが、二次性サルコペニアは若い人でも起きることがあります。
一次性サルコペニア:加齢による筋肉量の減少
二次性サルコペニア:加齢以外(寝たきり・疾患・栄養)が原因の筋肉量の減少
特に明らかな原因がなくても、加齢遺伝子の影響により、加齢とともに筋肉量は低下する傾向にあります。
個人差がありますが、一般的に30歳前後から筋肉量の減少が見られ始めると言われています。加齢とともに筋肉が減っていくのは自然な減少なのです。
サルコペニアは高齢者に多い
サルコペニアは、認知症や骨粗鬆症などと同じように高齢者に多い症状です。特に75歳以上になると急に増え、75~79歳の男女のおよそ2割、80歳以上では男性の約3割、女性の約半数がサルコペニアに該当するという研究結果(東京都健康長寿医療センター研究所)もあります。
いわば老化現象にあたりますが、実は30歳頃からすでに進行が始まっていて、生涯にわたって進行し続けると言われています。
サルコペニアの原因
サルコペニアは加齢が主な原因です。
筋肉は合成(作る)と分解(壊す)を繰り返しています。若い人は、この筋肉の作られる量と壊される量がほぼ均一に保たれているので、特に運動をしていなくても、また食事に気を使っていなくても、筋肉が目立って減ることはありません。
しかし、高齢になっても同じような意識で生活をしていると、筋肉の減少を避けられません。
なぜかというと、人は年齢を重ねると、運動量の減少とともに成長ホルモンなどが減少していきます。加えてタンパク質が不足しがちになり、筋肉が作られる量よりも壊される量の方が多くなってしまうのです。
そのため、何も意識せずに普通の生活を送っているだけでは筋肉量が落ちてしまい、サルコペニアになりかねません。
体力運動能力調査結果:加齢に伴う握力の変化
握力が 15kg 未満になると、未開封のペットボトルのふたを開けることが困難になると言われています。
サルコペニアが体に及ぼす影響
サルコペニアになると、体にさまざまな悪影響を及ぼします。
サルコペニアから要介護状態になるおそれがある
サルコペニアになると、歩く、立ち上がる、着替える、入浴するなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じます。放置すると歩行困難になり、介護が必要になったり、転倒しやすくなったりもします。
また、手足の筋肉だけでなく、食べ物や飲み物を飲み込む際に必要な筋肉が低下する可能性もあります。嚥下機能の低下にも注意が必要なのです。
筋肉の低下は寿命にも影響を及ぼします。サルコペニアは、認知症、骨粗鬆症、糖尿病など、高齢者の健康を左右する病気と密接な関連があります。
75~84 歳の高齢者の「歩く速さ」と「10 年後の生存率」を調べた研究では、歩くのが早い(=筋肉の量が多い)人ほど長生きするというデータがあるそうです。サルコペニアが高齢者の健康や人生に及ぼす影響は非常に大きいと言えます。
フレイルに進行する
サルコペニアはフレイルの最大の危険因子と考えられています。
フレイルとは
フレイルは、英語の「Frailty(虚弱)」からきている言葉で、介護が必要となる前の段階の「虚弱な状態」をいいます。
筋力の低下(サルコペニア)により運動量が減ると、食欲が落ちて食事の量が減ります。それが体重の減少につながり、さらに筋力が低下してしまいます。こうした悪循環が進んでいくことをフレイルサイクルと呼びます。
サルコペニアが原因となってフレイルが進行すると、要介護状態になるリスクがあるのです。
こんな症状があったらサルコペニアを疑おう
サルコペニアかどうかの判断基準をお伝えします。
サルコペニアの可能性がある症状
- 転びやすくなる、頻繁につまずく
- 歩くスピードが遅くなる
- 青信号の間に横断歩道を渡りきれない
- ペットボトルやビンのふたが開けにくい
- ドアノブを回せない
- 着替えなどの日常動作が行いづらい
- 短距離の移動や立っているだけでも疲れやすい
- 椅子からの立ち上がりが困難になる
- 手すりにつかまらないと階段を上がるのが困難
サルコペニアの診断基準
サルコペニアの診断は、歩行速度、握力、筋肉量測定で行われます。
- 歩行速度:1秒あたり0.8m以上の速さで歩行できるかどうか
- 握力:男性26kg未満、女性18kg未満かどうか
- 筋肉量:一定の基準より減少しているかどうか
横断歩道を渡れるかでチェック
サルコペニアのひとつの判断材料として、青信号の間に横断歩道を渡れるかどうかが挙げられます。
多くの横断歩道は、毎秒1メートルの速さで歩けば青信号のうちに渡りきれるよう設計されているそうです。
そのため、青信号で渡りきれない場合、サルコペニアの可能性があると判断できます。とはいえ、横断歩道を使ったチェックは危険を伴うのも事実です。あくまでひとつの目安として考えましょう。
ななのひとこと・ふたこと
親がサルコペニアかどうか日常生活のなかで気付くには、普段からの心がけが最も有用だと思います。
例えば、親と一緒に歩いて横断歩道を渡るとか、手を握ってみて力強さがあるかとか、そんなちょっとしたことが大事なんだと思います。